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コラム
コラム~腱板断裂③~
2015/11/28
今回は腱板断裂の治療法についてお話しします。
腱板断裂は多くの場合、外来通院での治療で症状が軽くなります。そのため手術をしない保存療法が第1選択となることが多いです。しかし、保存療法の効果が認められない場合や腱板断裂が広範囲の場合、筋力低下が著しく日常生活に不便がある場合などは手術療法を選択します。
〇保存療法
・安静…まずは痛めてしまった肩を休めていきます。腱板断裂の原因は肩の使いすぎによるものが多くを占めます。そのため無理をせず安静にし、肩を休めることも大切な治療の1つとなります。
・活動制限…肩を使うスポーツや重い物を持つなど肩に負担をかけるような活動を制限する必要もあります。また、日常生活の中では痛みのでるような動きや姿勢を避けることも必要になります。
・注射…夜間痛や動作時痛などの痛みが日常生活での苦痛がある場合や痛みによりリハビリが進まない場合などに行います。炎症や痛みが強い場合にはステロイドの注射をして、炎症や痛みを抑えていきます。
それでも炎症が残る場合、関節の動きを良くする目的でヒアルロン酸を注射することもあります。
この他に、ロキソニンやシップなどの塗り薬や貼り薬も併用する場合もあります。
保存療法にはリハビリによる治療も含まれますが、リハビリについては次回のコラムで
お話しさせて頂きます。
〇手術療法
保存療法による通院治療を行っても、肩の引っ掛かりによる痛みが取れない場合や、力が入らず腕が挙がらない場合には手術によって断裂部分の縫合をします。また、腕を挙げる動作を必要とするスポーツや仕事に復帰を望む場合にも手術を行うことがあります。
手術療法には主に①オープン法、②関節鏡法、③ミニオープン法の3つがあります。
①オープン法…歴史のある方法で、大きな断裂に選択されることが多いです。三角筋を 肩峰から切離することで直接的に腱板断裂を確認できる特徴があります。オープン法では肩峰の骨棘を切除する肩峰形成術を併用することが多くあります。オープン法は腱移行術、腱移植などを併用する場合に良い方法となります。
②関節鏡法…関節鏡というものを関節内に入れて手術を行います。モニターに映った関節内の映像を見ながら小さい手術器具を用いて手術を行います。関節鏡はとても小さいため、手術による傷も小さくなります。
③ミニオープン法…関節鏡を用いて肩峰の骨棘を切除した後に腱板を修復します。オープン法との違いは三角筋を肩峰から切離しないところにあります。
このように腱板断裂は症状により様々な治療法が選択されます。
次回は保存療法のなかでもリハビリについてお話しさせていただきます。
コラム~腱板断裂②~
2015/11/18
前回に引き続き腱板断裂についてお話しさせて頂きます。
腱板断裂が起こる原因には大きく分けて3種類あります。
1つ目は肩関節の解剖学的構造によるものです。
腱板は棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という4つの筋肉で構成されていて、その中でも腱板断裂の多くは棘上筋に生じるとされています。
棘上筋は棘上窩という肩甲骨の上部から始まっていて、肩峰と肩甲上腕関節の間の狭いトンネルを通過しています。
腕を上へ挙げる時に、棘上筋は上腕骨頭を関節窩に引き付ける力を発揮することで円滑な肩関節の動きができるようになります。
しかし、何らかの原因で棘上筋による関節窩へ引き付ける力が発揮されず、腕を挙げるときに上腕骨頭が上へ持ち上がってしまうと肩峰と肩甲上腕関節の間のトンネルはさらに狭くなります。
そのとき、棘上筋が肩峰との衝突や摩擦を繰り返すと、損傷や断裂が生じてきます。
このような腱板断裂は主に野球の投球動作やバレーボールのスパイクなどオーバーヘッドスポーツでの繰り返し動作に多く起こるとされています。
2つ目は、年齢や老化によるものです。
年齢や老化により腱板断裂が起こる原因はさらに①反復動作によるもの、②循環障害によるものの2つに分けられます。
- 反復動作によるものには野球やバレーボールのような肩を使うスポーツにより腱板断裂が起きる可能性が増加します。それだけではなく、洗濯や物干し、布団の上げ下ろしなどの家事動作も原因の1つとなる可能性があります。
- 循環障害によるものには、年齢とともに腱板に必要な血流が減少すると考えられており、栄養障害により県の老化を加速させます。さらに喫煙も循環障害を引き起こす原因の1つとされているため、腱板断裂の危険性が高くなります。
腱板断裂の多くはこれらの様々な原因があり、長い時間をかけてすり減った結果引き起こされることが多く、さらに、使用頻度の高い利き腕に多く発症するとされています。
3つ目は、外傷によるものです。転んだ時に手をついたとき、肩を強打したときに多く、特にコンタクトスポーツや交通外傷など大きな外力により発症することが多いです。
腱板断裂の症状は、肩関節痛が最も多く、筋力低下や腕が挙げられない(可動域制限)などがあります。肩関節痛には腕を挙げる時の痛みや夜間痛があり、夜間痛には、同じ姿勢を続けることができない、肩を下にして眠れないなどがあります。
筋力低下では、ハンドルを握って長く運転できない、後ろの物を取れない、下の物は持ち上げられるが、物を上へ差し上げられないなどがあります。可動域制限は断裂後の炎症や痛みによって起こります。
これらの症状は腱板断裂で必ずしも起こることではなく、痛みや筋力低下、可動域制限がほとんどない無症候性のものも多く存在しているとされています。
今回は腱板断裂がどのようにして生じてしまうのか、腱板断裂が生じてしまったらどのようなことが起こるのかをお話しさせて頂きました。
次回は治療法についてお話しさせて頂きたいと思います。
コラム~腱板断裂①~
2015/11/6
今回のコラムでは肩関節の腱板断裂についてお話しさせて頂きます。
まずは腱板の作用についてです。
腱板とは「回旋筋腱板」とも呼ばれ、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という4つの筋肉により構成されています。
肩関節の中には肩甲上腕関節という関節があり、この関節は肩甲骨の関節窩と上腕骨頭から構成されています。肩甲骨の関節窩は受け皿のような形をしており、窪みが浅くて小さいという特徴があります。
一方、上腕骨頭は関節窩に対して、丸くて大きい特徴があります。このような特徴があるからこそ、肩関節はいろいろな方向に大きく動かすことができるとされています。
しかしこのままだと、肩関節の安定性は低く、脱臼など肩関節の障害を招きやすくなってしまいます。これだけではなく、支点となる肩関節が安定していなければ、肩関節を滑らかに動かせなくなってしまいます。
そこで、肩関節を安定させる役割を担う構造が必要になってきます。
この中でも腱板は動かしている状態での安定性、つまり動的安定性を担っています。
どのようにして腱板が動的安定性を担っているかというと、腱板は名前のとおり、4つすべての筋肉が上腕骨を骨の軸に対して回旋をさせる作用をもっています。腱板はいろいろな方向から上腕骨頭を取り巻くように付着しています。
そのため腕を挙げるときなど、肩関節の動作のときに上腕骨頭を関節窩に引き付けることで動的安定性を高めてくれています。
このように、腱板は上腕骨を回旋させる作用と、肩関節の動的安定性を高めていることで、肩関節の動きを滑らかにしているといういろいろな作用を持っています。
腱板断裂によって、このような作用が効かなくなってしまった場合、肩関節はどのような事が生じてしまうのか、またどのようにして腱板断裂が生じてしまうのかについて、次回お話しさせて頂きたいと思います。
コラム~肩関節脱臼④~
2015/10/22
今週は肩関節脱臼のリハビリについてお話します。
反復性肩関節脱臼は、外傷による解剖学的な損傷と、受傷後に関節を安定させる機構が破綻したままでの使用による二次的な損傷が重なり合い、起きていることが多いです。
そのため、術後のリハビリテーション(以下、リハビリ)は損傷による機能障害の改善を主とすることはもちろん、損傷している部位以外に対しても訓練が必要となります。
術後のリハビリは期間によって大きく3つに分けられます。
①術後~3週目
リハビリでは、炎症や疼痛のコントロールを目的としたアイシングや、肩の可動域を確保する為に他動的に動かすことを行います。
術後早期では、損傷修復部位は不安定な状態にあるため、この時期は固定期間となります。リハビリ中は固定を外して動かしていきますが、管理された角度の範囲内での運動となります。
肩の固定によって肩甲骨や肘、手などの肩の近くの関節が硬くなることもあるため、患部外の運動も併せて行っていきます。
また、この時期は疼痛を避けようと別の部位に過剰な負担をかけるような姿勢や力みをしがちです。結果、これらによる二次的な疼痛も生じる場合もあり、不良姿勢の改善やリラクゼーションも行っていきます。
<肩甲骨の運動>
②4~8週目
この期間では、上記のリハビリに加えて出来る範囲での自動的な肩の運動も行っていきます。また、肩関節を動かす筋肉、特に腱板のトレーニングも開始されます。この際、筋、関節への負担を考慮して関節の角度を変えない状態でトレーニングを行うことが注意点となります。
<回旋筋トレーニング>
<三角筋(腕を外に開く筋肉)トレーニング>
③9~12週目
この時期になると縫合した関節唇の状態も安定するため、恐怖感なく肩を動かしていけるようになります。そのため、可動域の最終域でのストレッチや、負荷量を上げたトレーニングを行っていきます。
<負荷量の高い肩甲骨トレーニング>
写真の運動以外にもチューブなどで負荷を加えて回旋筋や肩周りの筋肉を鍛えていきます。
初回のコラムでお伝えした様に肩関節は多くの関節から成り立つ複合体です。そのため、どれか一つの関節の可動域や筋力を改善していくのではなく、患部の状態に合わせて個別の機能に沿ったアプローチを全体的に行っていく事が大切になるのです。
今回で肩関節脱臼についてのお話は終わりとなります。最後までご覧いただきありがとうございました。
コラム~肩関節脱臼③~
2015/10/16
今週は肩関節脱臼の治療法についてお話します。
まず、脱臼してしまった肩はなるべく早く整復することが大切です。
当院ではスティムソン法という整復法を採用しています。
スティムソン法とは、
- 対象者はうつぶせでベッドに寝る。
- 脱臼した腕に重錘を付ける。
- 腕をベッドの端から垂らす。
そのままリラックスした状態で20分程待つと、自然と骨頭が元の位置に戻っていきます。
肩甲骨を浅いお皿に、骨頭をお皿より大きいボールに例えると、脱臼している肩はお皿からボールがこぼれそうになっている状態といえます。
これをスティムソン法で肩をリラックスさせることでボールがつるんとお皿に戻っていきます。
初回脱臼時の整復後には固定期間を3週間設けています。
固定姿位は、わきにつけた肘を90°に曲げた状態で、肩を外に捻る外旋位と、内に捻る内旋位での固定法があります。
<外旋位固定>
<内旋位固定>
内旋位に比べて外旋位固定では、脱臼した際に剥離した組織が密着した状態で修復を図れるため、より脱臼前に近い状態に回復するといわれています。
しかし、外旋位固定は腕を体の外に開くことになるために幅を取り、日常生活を送るうえであまり実用的ではないという側面もあります。
脱臼を繰り返し、肩の組織が脆弱化したことで小さな衝撃でも脱臼してしまうような状態、反復性脱臼を呈してしまった場合には、手術での治療も選択されます。
当院ではバンカート法を行っております。
バンカート法とは、脱臼した際に剥離した関節唇を縫合し、糸のついたスーチャーアンカーと呼ばれるビスで固定します。
このようにして、脱臼により損傷した組織を縫合し、固定することで安定性を高め、回復を促進します。
今回は、脱臼後の処置・治療についてお話しさせていただきました。
次回は、脱臼後のリハビリについてお話しさせていただきたいと思います。