祐天寺整形外科クリニック

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お知らせ

コラム~腱板断裂①~

2015/11/6

 

今回のコラムでは肩関節の腱板断裂についてお話しさせて頂きます。

 

まずは腱板の作用についてです。 

腱板とは「回旋筋腱板」とも呼ばれ、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という4つの筋肉により構成されています。

 

肩関節の中には肩甲上腕関節という関節があり、この関節は肩甲骨の関節窩と上腕骨頭から構成されています。肩甲骨の関節窩は受け皿のような形をしており、窪みが浅くて小さいという特徴があります。

一方、上腕骨頭は関節窩に対して、丸くて大きい特徴があります。このような特徴があるからこそ、肩関節はいろいろな方向に大きく動かすことができるとされています。

 

しかしこのままだと、肩関節の安定性は低く、脱臼など肩関節の障害を招きやすくなってしまいます。これだけではなく、支点となる肩関節が安定していなければ、肩関節を滑らかに動かせなくなってしまいます。

 

そこで、肩関節を安定させる役割を担う構造が必要になってきます。

この中でも腱板は動かしている状態での安定性、つまり動的安定性を担っています。

どのようにして腱板が動的安定性を担っているかというと、腱板は名前のとおり、4つすべての筋肉が上腕骨を骨の軸に対して回旋をさせる作用をもっています。腱板はいろいろな方向から上腕骨頭を取り巻くように付着しています。

そのため腕を挙げるときなど、肩関節の動作のときに上腕骨頭を関節窩に引き付けることで動的安定性を高めてくれています。

 

このように、腱板は上腕骨を回旋させる作用と、肩関節の動的安定性を高めていることで、肩関節の動きを滑らかにしているといういろいろな作用を持っています。

 

腱板断裂によって、このような作用が効かなくなってしまった場合、肩関節はどのような事が生じてしまうのか、またどのようにして腱板断裂が生じてしまうのかについて、次回お話しさせて頂きたいと思います。

コラム~肩関節脱臼④~

2015/10/22

今週は肩関節脱臼のリハビリについてお話します。    

 反復性肩関節脱臼は、外傷による解剖学的な損傷と、受傷後に関節を安定させる機構が破綻したままでの使用による二次的な損傷が重なり合い、起きていることが多いです。

そのため、術後のリハビリテーション(以下、リハビリ)は損傷による機能障害の改善を主とすることはもちろん、損傷している部位以外に対しても訓練が必要となります。

 

術後のリハビリは期間によって大きく3つに分けられます。

①術後~3週目

リハビリでは、炎症や疼痛のコントロールを目的としたアイシングや、肩の可動域を確保する為に他動的に動かすことを行います。

術後早期では、損傷修復部位は不安定な状態にあるため、この時期は固定期間となります。リハビリ中は固定を外して動かしていきますが、管理された角度の範囲内での運動となります。

肩の固定によって肩甲骨や肘、手などの肩の近くの関節が硬くなることもあるため、患部外の運動も併せて行っていきます。

また、この時期は疼痛を避けようと別の部位に過剰な負担をかけるような姿勢や力みをしがちです。結果、これらによる二次的な疼痛も生じる場合もあり、不良姿勢の改善やリラクゼーションも行っていきます。

<肩甲骨の運動>

肩甲骨外転

内転

 

 

 

48週目

 この期間では、上記のリハビリに加えて出来る範囲での自動的な肩の運動も行っていきます。また、肩関節を動かす筋肉、特に腱板のトレーニングも開始されます。この際、筋、関節への負担を考慮して関節の角度を変えない状態でトレーニングを行うことが注意点となります。

<回旋筋トレーニング>

ERtr

IRtr

<三角筋(腕を外に開く筋肉)トレーニング>

Deltoid

912週目

 この時期になると縫合した関節唇の状態も安定するため、恐怖感なく肩を動かしていけるようになります。そのため、可動域の最終域でのストレッチや、負荷量を上げたトレーニングを行っていきます。

<負荷量の高い肩甲骨トレーニング>

肩甲骨スタビリティ

 

写真の運動以外にもチューブなどで負荷を加えて回旋筋や肩周りの筋肉を鍛えていきます。

 初回のコラムでお伝えした様に肩関節は多くの関節から成り立つ複合体です。そのため、どれか一つの関節の可動域や筋力を改善していくのではなく、患部の状態に合わせて個別の機能に沿ったアプローチを全体的に行っていく事が大切になるのです。  

今回で肩関節脱臼についてのお話は終わりとなります。最後までご覧いただきありがとうございました。

コラム~肩関節脱臼③~

2015/10/16

今週は肩関節脱臼の治療法についてお話します。

 

 まず、脱臼してしまった肩はなるべく早く整復することが大切です。

当院ではスティムソン法という整復法を採用しています。

 

スティムソン法とは、

  1. 対象者はうつぶせでベッドに寝る。
  2. 脱臼した腕に重錘を付ける。
  3. 腕をベッドの端から垂らす。

そのままリラックスした状態で20分程待つと、自然と骨頭が元の位置に戻っていきます。

 整復 

肩甲骨を浅いお皿に、骨頭をお皿より大きいボールに例えると、脱臼している肩はお皿からボールがこぼれそうになっている状態といえます。

これをスティムソン法で肩をリラックスさせることでボールがつるんとお皿に戻っていきます。

 

 初回脱臼時の整復後には固定期間を3週間設けています。

固定姿位は、わきにつけた肘を90°に曲げた状態で、肩を外に捻る外旋位と、内に捻る内旋位での固定法があります。

<外旋位固定>

ER固定

 

 

<内旋位固定>

IR固定

 

内旋位に比べて外旋位固定では、脱臼した際に剥離した組織が密着した状態で修復を図れるため、より脱臼前に近い状態に回復するといわれています。

しかし、外旋位固定は腕を体の外に開くことになるために幅を取り、日常生活を送るうえであまり実用的ではないという側面もあります。

 

 

 脱臼を繰り返し、肩の組織が脆弱化したことで小さな衝撃でも脱臼してしまうような状態、反復性脱臼を呈してしまった場合には、手術での治療も選択されます。

当院ではバンカート法を行っております。

バンカート法とは、脱臼した際に剥離した関節唇を縫合し、糸のついたスーチャーアンカーと呼ばれるビスで固定します。

このようにして、脱臼により損傷した組織を縫合し、固定することで安定性を高め、回復を促進します。

 

 

今回は、脱臼後の処置・治療についてお話しさせていただきました。

次回は、脱臼後のリハビリについてお話しさせていただきたいと思います。

コラム~肩関節脱臼②~

2015/10/8

前回に引き続き、肩関節の脱臼についてお話します。

 

肩関節脱臼には外力による外傷性と非外傷性があります。

肩関節は大きな可動域を持つ反面、その分だけ不安定な状態にあると言えます。

肩関節は骨による支持性が低い分を軟部組織と呼ばれる関節包や靭帯、腱板などによってカバーされていますが、スポーツでの接触や転倒などによる外力が加わると支えきれず脱臼してしまうこともあります。

 

 また、肩関節が脱臼する方向として、前方、後方、下方の3つがありますが、外力による脱臼のほとんどを占めるのが前方への脱臼です。

腕の姿位では、肩関節の外転(体の横から腕を開くような動き)、外旋(腕を親指側へ捻じるような動き)、水平伸展(腕を肩の高さまで上げた状態で背中側へのばす動き)となります。

脱臼受傷機転

 この理由として、解剖学的に肩関節前方の支持性が低いことが挙げられます。日常での一例では、転倒した際に腕を開き(外転)、伸ばしたまま手をついてしまい、腕が背中にまわる(水平伸展)ような衝撃がかかってしまい、脱臼に至ります。その為、肩甲骨の関節面に対して上腕骨が前方に外れてしまうことから、前方への脱臼が多くなります。 

 脱臼した際には、関節周囲にある組織の損傷を伴う場合があります。その代表的な例が、Bankart病変とHill-Sachs病変です。

Bankart病変とは、脱臼時に骨頭が関節窩に衝突し、関節唇の前下方部が剥がれることや、摩耗や欠損することです。 

バンカート

Hill-Sachs病変とは、脱臼時の骨頭と関節窩の衝突により、骨頭の後外側に陥没骨折が起きることです。

ヒルサックス

 

 これらの病変をきたすことで、脱臼を整復後も病変部位への外力には弱くなり、脱臼を繰り返してしまうことが多くなります。これを反復性脱臼といいます。脱臼を繰り返すことで更に軽微な力によって脱臼をしやすくなってしまうので、しっかりとした整復や治療が必要となります。

 

今回は、脱臼が起きる流れや起きた際に生じる事についてお話しさせて頂きました。

次回は、治療について説明させて頂きたいと思います。

コラム~肩関節脱臼①~

2015/10/1

今回は肩関節脱臼についてお話させて頂きます。

肩関節は人体で最も可動域が大きい関節であり、脱臼しやすいとされる部位です。

最初に簡単に肩の構造について説明させて頂きます。

 

まず、肩関節は5つもの関節から成り立つ複合体であり、これらが協調的に働くことで安定性を保ちつつ自由度の高い肩の動きを可能にしています。

その5つとは、

①肩甲上腕関節

②胸鎖関節

③肩鎖関節

④肩甲胸郭関節

⑤第2肩関節(肩峰下関節) です。

 

詳しい場所はこちらになります。

 

そして、実際に脱臼するのは①肩甲上腕関節です。

そもそも脱臼とは関節面同士の適合性が完全に失われたものとされ、自然に整復した状態を亜脱臼といいます。

 

この肩甲上腕関節を構成する組織には、

①肩甲骨の関節窩と上腕骨頭

②その周囲にある線維性組織である関節唇、関節包靭帯

③さらに②の外周を取り巻く腱板と呼ばれる腱組織   があります。

 

更にこの組織たちは、静的な安定性と動的な安定性を保つ組織として分類できます。

静的、つまり動かしていない状態での安定性を高めてくれているのは関節唇、関節包、靭帯です。

関節唇とは、その名の通り肩甲骨の臼状の関節面の外周を唇の様に縁取っている組織の事です。この関節唇があることで関節の接触面積が増え、安定性を高めてくれています。

 

動的、動かしている状態での安定性を高めてくれているのは、主に棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という筋肉たちです。

この4つは腱板とも呼ばれ、上腕骨を骨の軸に対して回旋させる作用のある筋肉たちです。

この筋肉たちはいろんな方向から上腕骨頭をとりまくように付着しています。

そのため、動作の時に骨頭を関節面に引きつけることで安定性を高めてくれているのです。

また上腕二頭筋も骨頭の動きを制動してくれています。

 

また、筋肉にはForce coupleと呼ばれる筋肉同士の仲間が存在します。

この仲間である複数の筋肉が協力して働くことで単一の筋肉の負担を減らしてくれています。

肩関節では、体の横から腕を開く外転運動の際に三角筋と棘上筋がForce coupleを形成しています。

この2つは同じ外転の働きをしてくれますが、最初に腕を開いていく際には棘上筋が骨頭を関節面に引きつけ、肩甲骨に対して上腕骨の関節面が滑る動きを助けています。

その上で、筋肉自体が大きく、発揮するパワーも大きい三角筋が外転運動を可能にしてくれているのです。

 

このように、肩では色々な組織が協調的に働くことで、大きな運動範囲を持ちながらも安定した運動を可能としているのです。

 

今回は肩関節の解剖についてお話しさせて頂きました。

次回は、実際にどのようにして脱臼が起きるのかを説明させて頂きたいと思います。